真冬のスペイン巡礼記

2018年1月、ブルゴスからサンティアゴ・デ・コンポステーラを巡礼してきました。

パラス・デ・レイ~アルスーア

1/19(金)

八時にアルベルゲを出る。朝ご飯を食べていられなかったので、りんごを食べながら歩く。

果物は歩いている間中ずっと日保ちするのを何かしら買ってリュックに入れていた。りんごとかみかんとか刃物がなくてもすぐ食べられるやつを。おやつにも非常食にもなるし水分も取れる。

今日は20キロ予定で肩と背中をいたわりつつゆっくりだらだら歩くつもりだった。

雨じゃないんだけど、殆ど霧で湿った朝の風景。湿気とぬかるむ道にも慣れてきた。というか山の雰囲気が今までで一番日本の田舎に近いので落ちつく。湿気と水と緑の匂い。

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牛さんのいる風景。

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Melide

背中を痛めて以来すっかりペースが落ちているので、8時に出ても、昼前にはゆっくり出てきた人達に抜かれる。キムさんアンナちゃんといった女性陣を見送ってまた歩き、13時頃にメリデの街に着く。だいたい13キロ強かな。

メリデではプルポを食べるのが楽しみだった。タコ好きだし巡礼の前半にもスペインのタコはアジアのタコとは全然違うからぜひ食べるべきだ、とMちゃんに言われていた。

名物だけあって幾つも店があるみたい。とはいえ今日はまだ歩くのであまり巡礼路を外れないで決めたい。ひとまず巡礼路沿いの店をGoogleマップでチェックして、評価が悪くないお店がすぐ近くにあったのでそこに入る。

店頭がガラス張りで料理をしているところが見える店。閑散期だからか巡礼は少なくて待たずに入れたけれど、お客さん自体は結構いて賑わっていた。

プルポと水とデザートにアイスクリームで13.4ユーロ。ワインでもよかったかなあでも歩くしなあ、と迷って結局水。

ここのプルポはサイズが色々あって私のは一番小さい一人前サイズ。でもこれだけで充分お腹いっぱいになるボリューム。グループで来てる人はもっと大きな皿のを注文してシェアしたりしてたみたい。

上のタコが乗ってる部分の皿が一人前のお好み焼きよりちょっと大きいぐらいのサイズ、と言えばこのタコの足の太さ、むっちり感が伝わるだろうか。

昨日のプルポの店も美味しかったし雰囲気よかった。けどここのは更に美味い。さすがプルポの街! と感動に震えつつタコにむしゃぶりつく。

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 食べる前にね、スマホで上の写真を撮ってたら店員さんが寄ってきてスマホを貸せというジェスチャーされて。ああもしかして店内撮影禁止だった???と一瞬ビビったのですけど。でもそんな事はなくてなんか普通に記念写真を撮ってくれました。こうして見ると大きいよねプルポの皿。

隣に置いてあるカゴの中身はパン。食事の時によく出てくるフランスパン的な固いパンなんだけど、このプルポにかかってるオリーブオイルを塗りたくって食べると本当に美味しい。あと他のところでも、スープに浸したり肉にかかってるソースを付けてみたりと、何と合わせても結構いけた。パン好き。

お水はペットボトルで供される。食事後に余った分はそのまま持って帰っていいのでこういう時の水は旅の飲料水として持ち帰るべし、と以前会った女の子に教わっていた。

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最高の昼食を終えて店を出て、また黄色い矢印に沿って歩く。

なんてことない景色にいちいち見とれ、これまでの街との違いなんかに気を留める。たとえば私に建築の知識や宗教の知識があればこの違いはもっと興味深く楽しめるのだろう。知識は、勉強は学んだ分だけ人生を豊かにするのだなあと改めて思う。

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メリデはアルベルゲも多い大きい街だけど、ここに泊まると翌日の距離がきつそうだから次の街へ行こう、と歩きだした。アプリには当時は少し先の町に泊まれるところがあるとあったので……。

巡礼路に沿って街を歩き、街を出て少しするとまた牛さんがいる。

乳牛ではなさそうだし食肉用なのかな? などと想像しつつ通り過ぎる。生き物の生きてる匂いもメセタの台地では殆ど感じられなかったものだ。

 

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川ってわけじゃないんだけど水が出てる、流れてる、みたいな場所がそこかしこにある。

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こういうところを渡るのはわくわくする。一人しかいなくても余裕ではしゃいでいる。

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ところがはしゃいでいたのもつかの間、泊まるつもりだったアルベルゲに行ってみたら玄関に張り紙「バカンス行ってきます」みたいな事が書いてある……おとなしくメリデに泊まっておくべきだったかなあ。でもまさか歩いて戻るのは嫌だしなあ……とまた歩きだす。D君達が今日向かっているアルスーア、その一つ手前の街には公営の年中無休のアルベルゲがある。

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18時過ぎ、暗くなりかけた中をやっとアルベルゲに着く。人気の無い、泊まっている人も少なそうな場所。周りに住居も少なく商店もない。

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このアルベルゲは何十人も泊まれる大きなものらしいけど閑散としていた。幾許かの不安を覚えながらホスピタレイロを捜す。

ペンションみたいな建物が何棟か組み合わさっている場所。トイレ棟は別にある感じだった。

受付に座っていたお姉さんは、私が泊まりたいと言うと少し困った様子で、ベッドはあるから構わないけど、ここには食事が出来る場所がないの、マジでここに泊まっちゃう? みたいな事を言った。

「レストランもないの?」

「ええそうよ」

「買物もできない?」

「一キロ先にスーパーが、三キロ先には次の街があるわ」

 食材を持ち歩くタイプにはそれでもいいのだろう。ここキャンプ場的な雰囲気あるし初夏に来たら楽しそうだ。でも私はお菓子と果物しか持ち歩いていないしスーパーへ行ってまた歩いて帰って来るのはさすがに……。アルベルゲは広いけれどあまりに閑散としていて、熱いシャワーを浴びてまったりできる雰囲気でもない。お姉さんも私が一人で快適に過ごせない事を心配してくれているようだった。

「三キロ先の街に行きます。ありがとう」

お姉さんは私を気遣い、ほっとした様子で送りだしてくれた。

公営のアルベルゲはこんな感じで、開いていると見せかけて閉める事ができないからとりあえず開けているだけ、みたいなところが冬はあるみたいだった。

この時点で18時半ぐらい。

外はどんどん暗くなっていくが、私はそんなに不安を感じてはいなかった。アルスーアまではこの背中が痛い状況でも一時間程で着くだろう。サリア以降の街は観光地的な雰囲気が強く、道も暗くはあるが広くて車道に面したところが結構多くて歩くのに怖いとまではいかない。アルスーアは大きいのでアルベルゲが万一駄目でもホテルなど必ずある。

少し歩いてから男性に追い抜かされた。昨日までに見た顔だったから、私を追い抜かすぐらい後ろにいた事に驚いた。彼は振り向き、水を切らしてしまったとジェスチャーで示してきた。私は最初判らなくてとんちんかんな答えを返したが、最終的に理解して彼にお水を少しあげた。

更に暗くなってきてからは、しばらく出していなかったライトをポケットから出して歩きだした。

先程の彼は私の前を歩いていたがその距離が一定より開く事はなく、時々私を振り返って立ち止まっていた。一人で遅くにトロトロ歩く私は心配されているのだと気づいて申し訳なくなる。この道はほぼ一本道で迷う可能性はまずないのに。優しい人だなと思うと同時に、迷惑かけちゃいかんと思うと足が進むし背中が痛くても後少しはリュックを下ろさず頑張ろう、と思える。予想より早くアルスーアに着けたのはもう間違いなく彼のおかげである。

 

急ぎ足になっていても、美しい夕暮れは撮らずにいられなかった。

朝から晩まで旅をする醍醐味は朝焼けも夕陽も眺められる事だ。

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アルスーアの街の入口に到達した辺りから彼はよく立ち止まるようになり、私は殆ど追いついた。彼は何度も街の人に道を訊いたり話しかけたりしているようだったが、その全てが女性だった。あと多分道とか関係ない話もしている。なんか色々大丈夫なのか……?いや、気遣ってもらったのは嬉しいがこの人に私はどこまで着いていってもいいのだろうか……そんなふうに思い、ひとまず人に頼らず自分でもアルベルゲを探すか。出来れば巡礼路を外れない近くがいいな、と思って検索してひとまず近い所に行ってみようかとした時だ。

「何してるの、こっちだよ」

「いや、私は近いアルベルゲに泊まろうかと……」

「Dのいる所に行くんだけど、君は来ないの?」

 えっ、D君いるん?

「行く!」

 というわけで結局彼のいるアルベルゲを目指した。街の入口からは少し離れていたけれど、ドアを開けた途端に暖かい空気が流れこんできて、ああ良さそうな宿だと思った。

 

Albergue Vía Láctea

www.booking.com

いい宿だった。ストーブがガンガンに焚かれてて暖かくて、広い宿で客が多い時期じゃないから全てが開放されてるわけじゃないけど充分。ベッドとベッドの感覚も広いしぎゅうぎゅうには詰めこまれなかったから遅い時間に行っても下のベッドが取れた。

D君に、宿閉まってて結局追いついたぜ、と言う。そうしたらもう少ししたら皆で食事を作るからどうぞって、誘っていただいた。

ありがたくご相伴に与る事にする。

部屋はD君達とは別になり、途中で見かけてた白人男女の三人組と一緒だった。まだ若い、多分大学生ぐらいの子達。私が部屋で足がむくまないようゴキブリ体操をしていて、「これ日本ではゴキブリ体操って言うんだよ」と教えたら女の子のほうがツボにハマったのか爆笑していた。

着いたらまず荷物を整理してシャワー。途中で道中にも会ったD君の友達の女の子達と話したりする。明日の目的地も一緒だと解って、一緒の宿に泊まろうねとか道中話そうねとか頑張ろうねとか言いあう。なんだか嬉しい。

別のお姉様(ご夫婦でカミーノを歩いているらしい)がドライヤーを貸してくれた。ブルゴスで泊まった部屋にも確かドライヤーはなかったから、久しぶりの文明の利器で髪を乾かす瞬間だった。それだけでかなり気持ちがほんわかする。凄い、ドライヤー凄い。髪がすぐ乾くよ! っていうかお姉様はドライヤーを持ち歩いているのだろうか。

食事もそのお姉様方が中心になって作っていたので、私は皿を運ぶぐらいだった。ニンニクを効かせた目玉焼きの美味しさに、これは日本へ帰ったら作らねばと決意する。サラダはドレッシングが足りなくてマスタードぶっかけたりもしてたけどこれも美味しかった。

 

さて、殆ど何もせずに食べさせてもらったので洗い物をします。これは私とD君が一通り洗い物をした後(写真左は私ではない)。ご飯を炊いた鍋だけはすぐにはお焦げが落とせそうにないから、一晩水につけておこうという事で意見がまとまった(そして翌朝洗ったよ)

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私をアルベルゲまで案内してくれた男性は、D君曰く凄くいいやつで女性に優しいんだけど、寝起きが本当に悪いのが玉に瑕で、この日もアルベルゲの退出時間をとっくに過ぎた昼頃にやっと起きて発ったのだとか(人が少ない時期だからか、宿によってはわりとゆるく許してくれる事もあったみたい)だからあんな時間に私に追いついたのだねえ。

女性にもひたすら声かけまくってたけどそれだけでないいい人で、別の場所でレストランで巡礼同士の喧嘩が起こりそうになった時に仲裁に入ったのを私も見ていたりした。うん、いい人だった。

あと三日でこの巡礼もゴールイン、かと思うと嬉しいような終わってほしくないような。